Japan Focus・沖縄大学地域研究所フォーラム「沖縄はどこへ向かうのか」
同フォーラムが以下のとおり行われました。(英文→Forum "Where is Okinawa Going?" Report Peace Philosophy Centre)
日時:2010.12.19 (日)午前10:00-午後5時
場所:沖縄大学3号館 101教室
主催:The Asia-Pacific Journal: Japan Focus / 沖縄大学地域研究所
協力:沖縄・生物多様性市民ネットワーク/Peace Philosophy Centre
いわゆる「尖閣諸島問題」や県知事選など、沖縄をめぐる状況が深刻である中、今後の沖縄の方向性を考えるために以下の3つのセッションが行われました。
セッションⅠ COP10以後の沖縄:「生物多様性」に市民はどう取り組むのか
セッションⅡ 「9.7」以後の沖縄:「尖閣諸島問題」を沖縄から問い直す
セッションⅢ 11.28以後の沖縄:知事選後の沖縄はどこへ向かうのか
沖縄・生物多様性市民ネットワークはセッションⅠをオーガナイズし、報告を行いました。
セッションⅠ 「COP10以後の沖縄:『生物多様性』に市民はどう取り組むのか」
ファシリテーター 吉川秀樹(沖縄BD事務局長)
プレゼンター 河村雅美(事務局次長)
コメンテーター 桜井国俊(沖縄大学)
この様子は、沖縄オルタナティブメディア(OAM)により動画配信されています。↓
※ 最初の1分は準備映像、はじめの数分は聞き取り難くなっています。ご了承ください。
1. ファシリテーター 吉川さんから、生物多様性条約、COP10についてなど、基本的情報の説明がありました。
吉川さんのpptファイルはこちら↓
※ 画面下辺をクリックしていただくと、スライドをご覧いただけます。
☞吉川さんの関係記事はこちら
「訴える」から「解決」へ 環境保全へ国際活動 琉球新報2010年12月15日
2. プレゼンターの河村さんの発表
「『生物多様性』に市民はどう取り組むのか:地域・国内・国際社会で」
河村さんのpptファイルはこちら↓
※ 画面下辺をクリックしていただくと、スライドをご覧いただけます。 アウトラインはこちら↓
「『生物多様性』に市民はどう取り組むのか:地域・国内・国際社会で」 河村 雅美(沖縄・生物多様性市民ネットワーク) 今日の話 -発表の目的 市民はどう「生物多様性」に取り組むのか、「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」 のCOP10への活動を通じて、 その課題と可能性を考えてみること。 -沖縄の市民活動の課題を、地域、国内、国際社会の3つのレベルで考える。
1.COP10への取り組み まず、COP10をめぐって様々なアクターがどのように関与していったか 概観してみる。 1)日本政府 管轄官庁は:環境省・外務省 -COP10が政府間会議であることが強調され、市民の積極的な関与を呼びかけるという姿勢は見受けられなかった。 ある意味、COP10は市民にとって「ひとごと化」されたといってもよい。 -SATOYAMA イニシアチブ 対外的にはSATOYAMA イニシアチブが提唱されたが、市民への説明は不十分。 日本語を用いた耳障りのよさのみが印象に残る。少なくとも市民からたちあがって対外的に提唱したものではない。市民とは距離間のあるもの。 -COP10前の滑り込み国内政策 COP10に滑り込みで間に合わすかのように、直前に様々な国内政策が発表された。 沖縄ではやんばるが国立公園候補の一つとなった。 2)沖縄県 -総じて消極的であったといえる。 -市民参加の必要性は感じていたようであるので、後述する、市民団体主催の生物多様性地域戦略フォーラムにも県として 出席し、次年度の戦略予定を話した。 -県主催の「沖縄の自然と生物多様性のパネル展」で、これまで市民に使用を許可していなかった県庁1階ロビーでの合同写真展が実現した。しかし、展示写真で"検閲”があり、森林伐採の写真は展示されないなど、 県の市民活動への理解度に対しては疑問の残るものであった。 -会期中、COP10ブースに出展し、情報収集のレベルであるが、国際自治体会議にも参加した様子である。
-CBD市民ネット(生物多様性条約市民ネットワーク)は、COP10に取り組むため、全国的な市民のための組織として設立された。 -COP10への参加・取組のための市民の一つの回路であり、沖縄は「沖縄地域作業部会」として参加した。(pptファイル参照)。 -政府・CBDの監視をしていく組織というよりは、政府との協調姿勢が目立っていた。 -COP10までは特定の地域・問題にはコミットしない姿勢を示していたが、会期中に海外NGO、CBDアライアンスの動きに触発されたのか、NGO共同アピールに上関問題が盛り込まれた。また、最終総括にも、沖縄や上関、諫早の問題に触れることとなった。 3)NGO ②その他 -日本の多くの市民団体は、環境を破壊する公共事業など「議長国日本」の国内政策に不満を持っていたといえよう。 -CBD市民ネットが対政府協調の姿勢、実効的な活動をしていないことにも不満があったように思われる。 そのような思いのが集結し、会場で「CBD-COP10開催国日本の開発行為に対するNGO共同宣言」のアピール行動が行われた。 4)企業 -企業は、「生物多様性」を新たなビジネスチャンスにとらえ、COP10に向けては新聞への広告掲載、会期中はブース出展、セミナー開催など積極的な動きが目立った。 -沖縄ではあまり伝えられていないが、TEEB(The Economics of Ecosystems and Biodiversity)の推進、「生物多様性」の経済指標化の動きが注目ならびに注意が必要とされるべきものであろう。 5)メディア -先進国と開発途上国の利益配分の報道量的分析はしていないが、NHKの報道、新聞から見ると、生物資源の先進国と開発途上国の利益配分の攻防がよくニュースとして取り上げられていた。 -日本政府の議長国としての会議運営の評価議長国である日本の舵取りの困難性についても好んで触れていたような印象がある。 -日本の深刻な、特に政治的な問題について触れることは少なかったのではないか? 特にTVはその傾向が強かった印象。 オープニングの日のNHK “Save the Future” などある意味、政府の「ひとごと化」に加担していたともいえよう。
2.市民の取り組みの難しさ COP10への取り組みは、以下の点で、市民としては難しい点があった。 ・「生物多様性」という言葉 この言葉の持つ堅さ、この言葉を使わなければならない必然性、イメージの湧きにくさは、取り組みの最初の難関であった。 メディアでは、その克服のため「国連地球生きもの会議」という、会議の本質を表していない会議名を用いていた。 ・カバーする領域の広さ カバーする領域が広いこと、特に「生物多様性」と「生物多様性条約」の2つの領域があり、それを理解し、どこで関与していく のかを探っていくのは市民にとって困難であった。 -「生物多様性」:サイエンティストの領域 自然保護、保全 -「生物多様性条約」:南北問題、人権 利益配分、ジェンダー、先住民族 ・情報入手、情報交換の手段のデジタル化、言語 生物多様性の本などは、会議近くなってやっと数が多くなったが、新しい情報はウェブでしか入手できず、取り組みのための連絡 手段はメーリングリストで、また情報発信もtwitterを用いて、といったようにデジタルが主流であった。 全くそのような手段を用いない人々とそうでない人の情報量が開いていくということが市民団体内でも全体でもあったのではな いか。 CBDや、CBDアライアンスなどの最新情報は英語であるため、直接的な関わりがしにくいといったこともある。
3-1 COP10に沖縄の市民はどう取り組んだのか 2011年3月に解散予定の時限立法組織である。 -県内の環境、平和、人権団体などが中心 -反基地、反公共事業を主張する色合いが強かった。 -「環境・平和・人権」を3本柱とし、それぞれの共同代表をたて、活動した。 -設立時、生物学者、環境教育などの専門家はいなかったのも特徴である。 -日本政府への失望から、日本政府への国際的な圧力を期待するという背景があった。 (会員のラムサール条約、IUCN、世界自然遺産登録などの経験から)
3-2 沖縄BD これまでにない取り組み 1)沖縄県内、県外を越えてのネットワークであった。 石垣、西表、奄美などの離島、開催地の名古屋、本土NGO、大学など、地域を越えて、様々な機関が関わったネットワークで あった。 2)国際会議へ、多くの市民が1年以上に渡って関わっていった。 これまではIUCN、単発の国際会議に限られた人々のみが短期間参加するという形だったが、 COP10は多くの市民が長期間に渡って関わっていった取り組みであった。 3)本土NGOなどと同時期に同目標(=COP10)での取り組みを行っていった。 これまでは、沖縄の単独の運動が多かったが、他団体と同時期に同目標に向かって並行して取り組んでいったものであった。 3-3 沖縄BDのこれまでの主な活動(1) 下記のとおり、行政への働きかけを随時行っていった。 ・生物多様性保全活動 大浦湾チリビシのアオサンゴ天然記念物申請のサポート ・パブリックコメント提出 ・政府、県への要請 また、国際社会への働きかけも行った。 ・国際会議への出席(沖縄で行われたUNEP会議) 3-3 沖縄BDのこれまでの主な活動 (2) 県内でも以下のような活動を行っていった。 ・生物多様性ノレッジカフェ(ジュゴン絵本、種の多様性) ・合同写真展(県内の自然保護団体などと合同写真展を県内で行っていった。) ・遠足シリーズ(高江、浦添カーミジー) ・講師派遣(なは女性センターのトークなど) 3-3 沖縄BDのこれまでの主な活動 (3) 「沖縄県生物多様性地域戦略」への取り組みを開始した。 「生物多様性地域戦略フォーラム」@沖縄大学 生物多様性地域戦略とは: ・地方自治体が策定する生物多様性の保全および持続可能な利用に関する基本的な計画 ・生物多様性基本法で地方自治体の努力義務規定に ・市民参加の実現が重要 3-4 沖縄BD:COP10会期中の展開 -ブース、ポスターセッション出展 -シンポジウム、フォーラムの開催 -アピール(ポジション・ペーパー、沖縄宣言 パンフレット配布) -国際先住民族フォーラムでのアピール 同フォーラムの閉会の声明で、辺野古新基地建設の憂慮の表明へ ◎取り組みからみえてきた課題 →市民運動のあり方を見直す機会に? 4-1 地域における課題 -生物多様性の「政治化」 ・沖縄BDは、抵抗運動から立ち上がってきた部分が大きいため、「政治化」された生物多様性色が強かった。 ・例えば、沖縄の生物多様性の損失の原因は、米軍基地と乱開発であるというポジションをとっていた。 「生物多様性の政治化」は、沖縄BDの活動期間と、鳩山政権発足、普天間飛行場県外移設の可能性、辺野古回帰など国政、県政との 戦いの中で加速化されていった面もある。
4-1 沖縄BD設立からの政治的な動き 鳩山連立政権発足により、普天間飛行場の県外移設の可能性が浮上したことなど政治的な動きが激しい時期であった。 pptファイルの表参照 4-1 生物多様性の「政治化」 プラスチックワード化?! ・この政治的な動きにも押され、「生物多様性」は政治的な場で用いられることが多くなった。→pptファイルの表参照 ・「生物多様性」という言葉がどのような意味も含ませることのできる「プラスチックワード」となっていったともいえる。 [定義があいまいだから、あらゆる場面で便利に使え、しかも学術的な雰囲気を持つ言葉。ドイツの言語学者ベルクゼンが提唱。 阿部健一「熱帯雨林消失と生物多様性」『kotoba』創刊号, p.69. ] ・ただし、「生物多様性」の普及啓発との関係も考える必要があろう。 4-1 地域における課題 [課題] 「政治化」による問題 -サイエンティストからの批判 サイエンティストからは生物多様性の「政治化」による、「生物多様性」の曲解の危惧、これにより、市民運動への不信につながることの懸念が一部から示されていた。 -「生産者」とのつながり 生物多様性の「政治化」は、地域作りという視点などを論じるスペースを生じさせなかった。 生産者といかにつながれるか、回路をいかにつくるかということが課題となった。
◎「平和」「人権」はCOP10会場では当たり前のこと。 ・しかし、一方、生物多様性条約の面からすれば、「平和」「人権」は重要な概念であるし、COP10会場では特殊なことではない。 「環境正義」という概念も、普通に受け入れられている概念であるし、気候変動においても「気候変動正義(Climate Justice)」という概念が打ち出されている。また、今回のCOP10では、CBD Alliance は「生物多様性正義(Biodiversity Justice)」という言葉を用いている。 ・生物多様性条約は、単なる自然保護の条約ではない。 自然と密接に結びついた文化や地域社会の権利を重視しているものである。 →このような面を私たちからサイエンティストに伝えていくべきであろう。 例えば「保護区」の問題もCBDでは両方の面”Bio-Cultural”を扱う (サイエンティストの専門集団と思われるIUCNでもこれを推進している)
4-2 国内において [課題]「共感」を得ることのスキル・ネットワーク構築 「本土向け」の言葉や工夫をしていくこと。 [可能性] 同じ目標に取り組んだ/でいることから ・沖縄の経験の発信 「被害」「問題のみでなく、解決方法をシェアしていく。 グッドプラクティスのシェア 例:全国でも取り組みが始まる地域戦略の取り組みを進行形でシェアしていく ・政策への積極的なインプット 「相殺」、「取引」、バンキングなど「生物多様性」の経済指標化に対しての警戒も必要 「生物多様性」は企業、国家の武器にもなりうることも意識していく必要がある。 4-3 国際社会において [課題] ・立ち位置の再検討 「アピール」という意味で、沖縄のポジションはどこにいくことが必要なのか、を 考える必要があるのでは? みんな問題があるので、戦略を練ることが必要。 -先住民族 (COPの中ではIIFB:国際先住民族フォーラムの中で、国内の先住民族という「席」があり、記者会見ができたり、 最終 声明で言及してもらうことができた) -あるいは、島嶼なのか、専門性(沿岸・海洋、森林etc)なのか。 ・地域・国内ネットワークの再構築 国際社会へのアピールには、国内ネットワークを構築することも必要。 生物多様性のための国際先住民族フォーラム(IIFB)への働きかけは、市民外交センターの力添え、琉球弧の先住民族の会の活動の 積み重ねがあってこそのことであった。
・Guardian掲載までの苦難… 英国紙Guardianの「Action: Preserve the biodiversity on Okinawa Island」に掲載されるには、科学論文の裏付けが必要であった。そのため、裏付けとしての論文が存在したやんばるの問題が掲載されたが、辺野古・大浦湾の問題は掲載することができなかった。このような意味で、科学者との連携も必要ではないか。 5 課題 ・問題を多く抱え、走り続けなければならない状況の中、市民運動のあり方を考えることができるか? しかしあえて、「生物多様性」をめぐる市民運動、社会運動のクリティカルな分析が必要ではないか? 先例『市民参加型社会とは:愛知万博計画過程と公共圏の再創造』(町村敬志・吉見 俊哉編、有斐閣、2005年)
・可能性・今できること 沖縄県生物多様性地域戦略策定過程を市民運動を見直すひとつの機会に
-政策策定過程への市民参加の実践 -行政との対話のスタイル -新たなコミュニケーションスキル -新たな本土との関係(ヤマトと沖縄のみではなく) -回路・ネットワーク形成 サイエンティストとの連携 生産者との連携 ☞この中で触れている「生物多様性地域戦略」の市民参加を提言した記事はこちら。
(「COP10以降の沖縄 政策形成に市民参加を」 沖縄タイムス2010年12月14日)
3. コメンテイター桜井先生からは「『生物多様性』に市民はどう取り組むのか:”モグラ叩き”を越えて」
アウトラインはこちら↓
「『生物多様性』に市民はどう取り組むのか “ モグラ叩き ” を越えて」
1.“ モグラ叩き ” の背景
2. モグラ叩きを越えて
3. 三位一体の地域戦略の策定と実施を目指そう
4. どこに向かうべきか
5. 生物多様性をめぐるサイエンティストとの関係について
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